行政書士資格塾・独学講座 第7回
H20/2/20 更新
法令等>憲法3
それではみなさん、行政書士・独学講座の第7回目の講義を始めます。憲法3の基本的人権です。基本的人権では、判例の理解が最も大切です。判例については、結果とその理由を理解して下さい。理解の手助けとして、事件集を用意しました。うかるぞの判例、六法、事件集を読み比べて下さい。同じものであっても、読み比べることが理解の早道です。判例の前提となる事件の概要を知ることは判例を理解するのに役立ちます。
判例の理解と並行して、条文の確認が必要です。よって、「うかるぞ行政書士」「憲法の解説
」「六法」を手元にご用意下さい。また、中上級者向けとして、「公務員試験六法
」をお勧めします。
憲法・事件集2
事件集18 八幡製鉄政治献金事件(うかるぞP89)
八幡製鉄(現在の新日鐵)が自民党に政治献金をしたのに対して、株主がそれは会社のやることではないとして裁判を起こした事件です。最高裁は、原則論として、「憲法第3章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能な限り、内国の法人にも適用されるものと解すべきである」とし、さらに政治献金などの政治的行為をなす自由も法人に保障されるとしました(S45・6・24)。
9 マクリーン事件(うかるぞP86)
ベトナム反戦運動等の政治活動に関し、外国人に政治的表現の自由があるかどうかが問題となった事件で、最高裁は、原則論として、「憲法第3章の諸規定による基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものと解すべきである」、としました(S53・10・4)。ただ、「在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を在留期間の更新の際に消極的な事実として斟酌されないことまでの保障が与えられているものと解することはできない」と判示した点については、実質的に政治的表現の自由を認めないものではないかとの批判があります。
10 三菱樹脂事件(うかるぞP48)
思想・良心の自由で精神的活動の自由が問題とされた事件です。原告は、大学を卒業して三菱樹脂という会社(被告)に就職しました(正確にいうと、三ヵ月間の試用期間後に本採用される予定になっていました)。ところが、彼は入社試験のときの身上書や面接で大学生時代に学生運動に参加していたことなどを黙っていたのです。会社はこのことを知り、彼がこうした重要なことを隠していたという理由で、本採用を拒否しました。裁判では、入社試験において応募者の思想を調べることは思想の自由の侵害ではないか、応募者がもつ思想を理由に本採用を拒否することは信条による差別にあたるのではないか、などが争われました。
もっとも、この事件ではこれらの争点の前提として「人権の私人間効力」ということが問題となりました。簡単にいうと、憲法が保障する権利や自由は、国民(公権力に対する関係で「私人」)と国民の間の関係にもあてはまるのか、という問題です。というのも、伝統的に憲法の人権保障というのは、原則として公権力と国民(私人)の関係に適用されるものと考えられてきたからです。
高裁は、憲法の保障は私人間(原告と会杜の関係)にもあてはまると考え、本採用の拒否は原告の思想・信条の自由を侵すものであると判断しましたが、一方、最高裁は、憲法による自由の保障は、この事件のような私人間の関係には直接には適用されない、として事件を高等裁判所に差し戻しました(S48・12・12)。なお、差し戻し後、会社との間で和解が成立し、原告は会社に復帰しました。
11 京都府学連デモ事件(うかるぞP40)
デモ行進者が許可条件に違反したとして、警官が証拠確保のために写真を撮影しましたが、これに対して、被告人がこの警官に対して傷害行為をはたらいたので、傷害罪および公務執行妨害罪で起訴されました。
被告は、憲法13条等の違反を主張したのに対して、最高裁は、憲法13条が、「国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保障されるべきことを規定しているものということができる。そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態…を撮影されない自由を有するものというべきである」として、肖像権(この言葉自体を承認していないが)を認めましたが、本件に関しては、適法な職務行為であったとして、被告の訴えをしりぞけました(S44・12・24)。
12 「宴のあと」事件(うかるぞP41、NC公民P75右)
ある政治家が、三島由紀夫の『宴のあと』を、私生活をのぞき見したかのような小説であるとして、プライバシー侵害を主張しました。それに対して、裁判所は、「私事をみだりに公開されないという保障が、…個人の尊厳を保ち幸福の追求を保障するうえにおいて必要不可欠なものであるとみられるに至っている」とし、原告の主張を認め、被告に、損害賠償の支払いを命じました(S39・9・28)。
13 尊属殺人罪違憲判決(うかるぞ未掲載)
1995年5月、刑法が改正され、明治時代に初めて刑法がつくられて以来存在していた尊属殺重罰規定が削除されました。改正前の刑法200条では「自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役二処ス」と定めていました。自分または配偶者の尊属(父母や祖父母といった目上の親族)を殺してしまった罪、つまり尊属殺人罪は、死刑あるいは無期懲役のいずれかしか科されないこととされておりました。この規定については、戦前の封建的身分社会の名残りであるとされ、憲法14条1項の「社会的身分」による差別であるとして強く批判されてきました。1973年に最高裁は、この尊属殺重罰規定について、憲法14条1項の禁止する差別的取り扱いにあたるとして、次のような理由を示し違憲判決を下しました(S48・4・4)。尊属に対する尊重報恩は社会生活上の基本道義であるから、刑法で他の殺人罪より重く罰しても不合理な差別とはいえない、しかし、刑法200条は刑罰を死刑と無期懲役に限っている、それは尊属に対する尊重報恩という目的をはるかに超えた不合理な差別的取り扱いにあたる、と。
こうした最高裁の判例もあって、新しい刑法では尊属殺人罪を削除し、尊属を殺害した場合にも通常の殺人罪(刑法199)で処罰されることになりました。
14 非嫡出子の法定相続分差別事件(うかるぞP45)
民法900条4号但書によると、非嫡出子(法律上の夫婦の関係以外で生まれた子)の法定相続分(法律によって定められた相続分)は、嫡出子(法律上の夫婦の間に生まれた子)の2分の1とされています。1995年最高裁は、この条文が問題となった事件で、合憲であるとしました。
まず判決は、民法900条4号但書が定められた目的に合理的な根拠があり、法定相続分の差別がその目的を達成するために著しく不合理とはいえない場合には、合理的差別といえるとします。そして判決は、民法900条4号但書の目的は、法律婚主義(つまり民法により保護されている一夫一婦制という婚姻形態)と非嫡出子保護との調整を図ることにあるとし、民法が法律婚主義をとっている以上、その調整の結果、嫡出子と非嫡出子との間に差が生じるのはやむをえないことであるのでこの規定には合理的根拠がある、としました。さらに、この条文の目的を達成するために、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1にしている点については著しく不合理とはいえない、としています(H7・7・5)。しかし、この判決で少数の裁判官は、違憲であるとしています。
15 謝罪広告事件(うかるぞP51)
良心の自由で沈黙の自由が争われた事件です。ラジオ・新聞で、ある人の名誉を毀損した人(被告)が裁判所の判決で「放送及び記事は真実に相違しており、貴下の名誉を傷つけ御迷惑をおかけいたしました。ここに陳謝の意を表します」という謝罪文を新聞に載せなさいという命令を受けました。この謝罪文の掲載命令について、被告は思想・良心の自由の侵害であると主張したのです。というのも、被告は、裁判で負けたとはいえ、なおも自分が述べたことは真実であると信じ、判決は心にもない内容の謝罪を強制するものと思えたからです。
しかし、最高裁はこの主張に対して、次のように答えました。掲載を強制される謝罪広告の内容により、場合によってはそれが思想・良心の自由の不当な制限となりうる場合もありうるが、上記のような内容である限り、思想・良心の自由の侵害にはあたらない、と(S31・7・4)。
16 ポポロ事件(うかるぞP60)
警察官の大学構内への立ち入りと大学の自治との関係が問題になった事件です。東京大学学内の教室で同大学の学生団体「ポポロ劇団」主催の演劇発表会が行なわれた際、観客のなかに私服警察官がいることを学生(被告人)が見つけ、他の学生とともにその警察官から警察手帳を奪い取るなど暴行を加えました。そのためこの学生は、暴力行為等処罰に関する法律違反で起訴されました。
第一審では、被告人の行為は大学の自治を守るための正当行為として無罪とされました。第二審もこれを支持しましたが、最高裁は、この事件が起こった集会は、真に学問的な研究発表のためのものではなく、実社会の政治的社会的活動であり、また公開の集会またはこれに準じるものである以上、この集会への警察官の立ち入りは大学の学問の自由と自治を侵すものではない、と判決しました(S38・5・22)。
17 旭川学カテスト事件(うかるぞP59)
文部省が1961年に実施した全国一斉学カテストが北海道旭川市の中学校で行われるのを実力で阻止しようとした教員4名が、建造物侵入罪などで起訴された刑事事件です。その審理の中で、国が教育内容を決定する権限を有するかどうかが、一つの争点となりました。
最高裁は、子どもの学習権を保障するためには、親や私立学校や教師にも限られた範囲で教育内容や方法についての決定権限があるが、それ以外の部分については、国が教育の内容や方法を決定する権限を有するとしました。そして、当時の学習指導要領はだいたいにおいて適切なもので違法ではないと述べました(S51・5・21)。
18 加持祈祷致死事件(うかるぞ未掲載)
宗教活動の自由にも一定の限界があるということが示された事例です。
僧侶である被告人は被害者の母親の依頼を受けて、被害者の異常な言動を治すために祈祷(きとう)を行いました。八畳間に護摩壇を設け、線香を焚いての加持祈祷に際し、被告人は、線香の熱気に苦しむ被害者をその父親等に押さえつけさせたり、あるいはヒモで手足を縛らせたり、線香の火を近づけたりの暴行を加えました。このため被害者は、祈祷開始四時間後に急性心臓麻痺で死亡しました。最高裁は、他人の生命、身体等に危害を及ぼすような違法な行為によって被害者を死亡させてしまったような場合は、もはや信教の自由の保障の限界を超えたものというほかない、と判断しました(S38・5・15)。
19 津地鎮祭訴訟(うかるぞP175)
憲法20条3項が禁じている「宗教的活動」の意味が争われた事件です。三重県津市は市体育館の起工にあたって神社神道固有の儀式にのっとった地鎮祭を執り行い、その費用を公金から支出しました。これについてその公金支出が憲法20条および89条に反するものではないかとして訴えが起こされました。
第二審では、この地鎮祭は単なる習俗的行為ではなく宗教的行為であるから、違憲であるとしました。これに対して最高裁は、憲法20条で禁じられている宗教行為とは、その目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進、または圧迫、干渉等になるような行為をいうとし、この基準(「目的効果基準」)に基づき、この事件の地鎮祭は、違憲ではないと判断しました(S52・7・13)。最高裁のこの判断は、政教分離に関するその後の事件の判決に大きな影響力を与えています。
20 愛媛県玉串料訴訟(うかるぞP176)
愛媛県知事が靖国神社に納めた玉串料等の公費支出分の返還を求めた住民訴訟である。一審では違憲、二審では合憲判決が言い渡され、住民側が上告していた。
玉串料の公費負担に対し次の様な理由で違憲判決が下った(H9・4・2)。靖国神社等が挙行した宗教上の祭祀である例大祭等に際して、県が玉串料を奉納したことは、県が特定の宗教団体の挙行する重要な宗教上の祭祀にかかわり合いを持ったことになり、習慣化した社会的儀礼とはいえず、また、そのかかわり合いは、一般人に対して、県が特定の宗教団体を特別に支援しており、それらの宗教団体が特別のものとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こす。本件玉串料の奉納は、その目的が宗教的意義を持ち、その効果が特定の宗教に対する援助、助長、促進になり、県と靖国神社等とのかかわり合いが我が国の社会的・文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものであって、憲法の禁止する宗教的活動に当たる。
※靖国神社の玉串料への公費支出をめぐる初の最高裁判決で、政教分離原則が問題になった訴訟で最高裁が違憲判決を下したのは初めてである。
21 殉職自衛官合祀事件(うかるぞ未掲載)
職務中に死亡した自衛隊員について隊友会(自衛隊員の家族や退職者の組織)が、ある神社に合祀(ごうし)(神道の神として、他の霊とともにまつること)の申請をしました。これに対して、キリスト教徒である妻が慰謝料の支払いと合祀申請の取り消しを求めて裁判を起こしました。
この裁判では、合祀申請のときの隊友会と自衛隊の関係、自分の信仰生活を他の人の宗教上の行為によって害されない権利はどこまで保護されるか、といった点が争われました。最高裁は、合祀申請のときの自衛隊の協力行為は、宗教とのかかわりが間接的であり宗教活動ということはできない、また、信教の自由の保障は何人も自己の信教と相いれない信仰をもつ者の信仰に基づく行為に対し、それが自己の信教の自由を妨害しない限り寛容であることを要請しており、静謐(せいひつ)な宗教的環境の下で信仰生活を送るべき利益なるものは、ただちに法的利益としては認められない、として原告の主張を退けました(S63・6・1)。
22 博多駅テレビフィルム提出命令事件(うかるぞP54)
アメリカの原子力母艦の佐世保寄港反対集会に参加しようとした学生が、博多駅で下車したところ、機動隊により駅構内から排除され、検問および持ち物検査を受けました。この行為に対して、公務員特別陵虐罪や職権置用にあたるものとして告発されましたが、検察が起訴しなかったため、この不起訴が正当であるかどうかを争う付審判請求がなされました。その審判の際に福岡地裁は、NHK等4つのテレビ局に事件当日のニュースフィルムの提出を命じました。放送局側は、報道の自由が侵害される、また提出の必要性が低い、と主張して争いました。
最高裁は、次のような理由で、問題の提出命令を合法なものと判断を示しました。一報道機関による報道が国民の「知る権利」にとって重要なものであり、その前提としての取材の自由も尊重されるべきである。しかし、公正な裁判の実現というような憲法上の要請があるときには、その自由もある程度の制約を受ける場合がある。この事件で争われたニュースフィルム提出命令についてみた場合、そのフィルムの証拠としての重要性は、その提出によって報道機関が被る不利益を考慮してもなお優先されるべきものである(S44・11・26)。
なお、最近の類似の事件として、「日本テレビビデオテープ押収事件」(H1・1・30)、「TBSビデオテープ差押事件」(H2・7・9)があります。どちらの事件についても最高裁は「適正で迅速な捜査」を行う必要があると認められる場合には、検察官や警察官による取材ビデオテープの差し押さえや押収が認められるという判断を下しています。(うかるぞP54)
23 サンケイ新聞事件(うかるぞ未掲載)
昭和48年12月サンケイ新聞に自民党が意見広告を出した。その内容は、ある政党Aの矛盾を難じる内容であった。Aは意見広告は誤解と偏見を与えるものであるから、反論せざるを得なくなったとし、反論文を無料で掲載するようにサンケイ新聞に要求し、訴訟を提起した。一審、二審共に請求は下記の理由により棄却された。
私人間において、当事者の一方が情報の収集、管理、処理につき強い影響力を持つ日刊新聞紙を全国的に発行するものである場合でも、本条の規定から直接に反諭文掲載請求権が他方の当事者に生ずるものではない。反論権の制度は名誉・プライバシーの保護に資するが、新聞発行者に対して負担を課するものである、その負担が批判的記事の掲載を躊躇させ、憲法の保障する表現の自由を間接的に侵す危険も存するので、反論権を認めるのに等しい反論文掲載請求権をたやすく認めることはできない(S62・4・24)。
24 税関検査訴訟(うかるぞP56)
ある書籍業者が輸入しようとした書籍が関税定率法21条1項3号所定の輸入を禁止している品に該当する旨の税関長からの通知を受けたのをきっかけに、税関検査の合憲性が争われた事件です。
最高裁は、次のような理由で検査を合憲としています。第一に、税関検査の目的は思想内容の審査・規制ではなく、関税の徴収であること、第二に、輸入を禁止されるものはすでに国外で発表されたものであるから、この検査によって発表の機会が全面的に奪われはしないこと、第三に、税関長からの通知のあと、裁判所に訴訟を起こして争うという手段が保障されていること、です(S59・12・12)。
25 東京都公安条例事件(うかるぞ未掲載)
東京都の条例によると、集会やデモ行進をする場合には、公安委員会の許可を受け、またその際につけられた許可条件を守らなければならないことになっていました。これに違反して起訴された被告人が、この条例の合憲性を争った事件です。
最高裁は次のような理由で条例を合憲としました。つまり、デモ行進等の集団行動も表現行為の一種として保障されるべきものであるが、集団行動というものは潜在的に秩序を乱すような行動に発展する危険性を有しており、このような危険に対処するために必要かつ最低限度の規制を行うことはやむをえない。そして、問題の条例は届け出制ではなく許可制がとられているが、その実質は届け出制と変わらず、また、集団示威行為が「場所のいかんを問わず」規制対象となっている点も、この条例を違憲無効とする程度までに不明確であるとはいえない(S35・7・20)。
26 家永教科書訴訟(うかるぞP56)
検定で不合格とされた教科書の筆者である家永三郎さんが、教科書検定は表現の自由の侵害にあたるのではないか等を争った事件です。
最高裁は、以下の理由で教科書検定は検閲にはあたらないという判断を下しました。小・中学校、高校の段階では教わる側(児童・生徒)の授業内容を批判する能力が低いし、学校や教師を選択する余地も少ないから教育の機会均等を図る必要がある。そのため教育内容は正確で中立・公正で、全国的に一定の水準であることを要求される。この要求を満たすための検定制度は、合理的で必要やむをえない限度のものであり、この検定に合格しなかった場合でも、その図書は一般図書として自由に出版・発行できるわけで、これを検閲ということはできない(H5・3・16)。
27 屋外広告物条例事件(うかるぞP57)
大阪市の屋外広告物条例は、美観風致の維持、公衆に対する危害の防止のため屋外広告物の表示の場所および方法等についての規制を定めていました。被告人はこの条例によって貼り紙等の禁止されている電柱等にビラを貼ったため、同条例違反(罰金刑)に問われました。
被告人は、このようなビラの貼付は公衆に危害を与えることはないし、ビラが美観風致を損なうかどうかは人によって感じ方が違う、また条例は営利目的の看板等を取り締まる目的のものであり、純粋に政治的内容のピラにこの条例を適用することは違憲である、等の主張をしました。
この主張に対し最高裁は、都市の美観風致を維持することも公共の福祉を保持することにあたるから、この程度の規制は公共の福祉のためになされる表現の自由に対する許された必要かつ合理的な制限といえる、として条例を合憲と判断しました(S45・6・17)。
28 よど号事件新聞記事抹消事件(うかるぞP57)
刑罰を受けて刑務所に収容されている人あるいは被疑者として拘留されている人の人権については特別な制限が行われる場合があります。この制限と知る権利に関連して次のような事例がありました。
ある被疑者が拘留中に新聞を定期購読していましたが、ハイジャック事件が発生した際、監獄長が、それに関する記事を新聞から全面的に抹消してしまいました。この処分に対してその被疑者は、知る権利の侵害であるとして争ったのです。しかし、最高裁は、閲読を許すことによって監獄内の秩序を維持するうえでの障害が生ずる「相当の蓋然性」があると認められる場合には、監獄長にそうした抹消処分が許される、としてその処分を適法なものと判断しました(S58・6・22)。
29 猿払事件(うかるぞP53)
公務員の政治的表現に対する規制が憲法21条に反しないかどうかが争われた事件です。 北海道猿払村の郵便局に勤める公務員が、衆議院選挙の際に、労働組合の決定に従って、日本社会党の公認候補のポスターを掲示場に掲示するとともに、他の者にも掲示を依頼して同ポスターを配付しました。しかし、国家公務員法は、国家公務員に対して、選挙権の行使を除き、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない(102条)と定め、人事院規則はこれを受けて、政治的目的を有する文書等の回覧、掲示、配付を禁じています。このため、その公務員は人事院規則違反として罰金の支払いを命じられました。
最高裁は、公務員の政治的中立性を損なうおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは、それが合理的で必要やむをえない限度にとどまる限り、憲法の許容するところである、と述べ、この規則で禁止された行為は、公務員の政治的中立性を損なうおそれが大きく、これに規定の罰金刑を科することは不合理とはいえない、との判断を下しました(S49・11・6)。
30 チャタレー事件(うかるぞP55)
『チャタレー夫人の恋人』というイギリスの小説の翻訳者とそれを出版、販売した書店の店主が、刑法175条(わいせつ文書の販売)の罪に問われました。この事件では、そもそも「わいせつ」とは何かということが争われ、判決で最高裁が示した「わいせつ」の定義(徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的差恥心を害し、善良な性的道義観念に反するもの)は今日の裁判にもなお受け継がれています。この判決によれば、わいせつ文書等を規制することができる根拠は、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持すること、にあるとされています(S32・3・13)。
31 岐阜県青少年保護条例事件(うかるぞ未掲載)
岐阜県は条例により「青少年の健全な育成を阻害するおそれがある」図書を有害図書に指定し、指定された図書を自動販売機に収納して誰でもが買える状態にしておくことを禁止しました。この条例の違反に問われた業者が、同条例は憲法21条に反するとして争った事件です。
最高裁は次のような理由で、この条例は憲法に違反するものではない、と判決しました。まず、条例が定めるような有害図書が青少年の健全な成育に有害であることは社会共通の認識である。条例のいう「有害図書」の定義は不明確ではない。自動販売機による有害図書の販売は、売り手と対面しないため心理的に購入が容易である、購入意欲を刺激しやすい、昼夜を問わず購入が可能であるなどの点で、書店などにおける販売に比べいっそう弊害が大きい。したがって、有害図書の自動販売機への収納の禁止は、青少年に対する関係でも、成人に対する関係でも、必要やむをえない制約である、と(H1・9・19)。
32 公衆浴場法違反事件(うかるぞ未掲載)
この事件は、知事の許可を受けないで公衆浴場を経営したとして起訴されたものです。被告人は、すでに許可を受けた公衆浴場から一定の距離には新規の公衆浴場を許可しないとする規定(距離制限規定)の違憲を主張しました。
これについて、最高裁は、公衆浴場の設置場所が配置の適正を欠いて偏在すれば、利用者である国民にとって不便であり濫立すれば競争が激しくなり衛生設備が低下するおそれがあり、このようなことは公共の福祉に反するものであって、距離制限などを理由として公衆浴場の経営の許可を与えないとする規定は、憲法22条に違反しない、としました(S30・1・26)。
33 薬事法違憲判決(うかるぞP63)
薬局の開設を申請したところ、既存の薬局から概ね百メートル離れていなければならないとする配置基準に合わないとして不許可となったので、この基準が憲法22条に違反するとの理由で不許可処分の取り消しを求めた事件です。
薬局の適正配置規制が、警察的・消極的措置であり、国は薬局が偏在すれば競争が激化し、一部薬局の経営不安定を招く結果、不良医薬品の供給の危険があり医薬品置用を助長すると主張するが、そのような事情は認められず、許可制をとる必要性と合理性を説明する理由とはならないとして、憲法22条1項に違反し、無効であるとしました(S50・4・30)。つまり、他の緩やかな手段によっても目的を達することができるから、適正配置は必ずしも必要ないとの判断を示したのです。
34 小売市場判決(うかるぞP64)
知事の許可を受けないで小売市場を建設し、小売商人に店舗を貸し付けたとして起訴された事件です。被告は、小売市場開設の許可制と距離制限が憲法22条1項などに反すると主張。最高裁は、社会・経済分野において規制に関しては立法府の判断にまつほかなく、裁判所はその判断を尊重するのを建前とし、規制が著しく不合理であることが明らかな場合に限って違憲となるとの一般論のあとで、小売市場の許可制は、経済的基盤の弱い小売商の事業活動の機会を確保し、小売商の正常な秩序を維持するために、過当競争が招く共倒れを防ぐためのものであるから、小売市場の許可制が目的においていちおうの合理性を認められ、手段と態様においても明らかに著しく不合理とはいえないとしました(S47・11・22)。
35 帆足計事件(うかるぞP68)
帆足計という人がモスクワでの会議に出席しようとした際に、「日本国の利益又は公安を害する」などの理由で、旅券を発給してもらえず、会議に出席できなかったため、国に対して損害賠償を請求した事件です。
これについて、最高裁は、憲法22条2項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由も含まれるが、外国旅行の自由といえども無制限ではなく、「日本国の利益又は公安を害する」などの理由で、旅券を拒否することは合理的な制限であり、占領下の日本が直面した国際情勢の下ではモスクワの国際会議に参加することが「日本国の利益又は公安を害する」と判断した外務大臣の処分は違法ではない、としました(S33・9・10)。
36 奈良県ため池条例事件(うかるぞP65)
ため池の堤とう(土手)に農作物などを植えることを禁止した条例に違反したとして起訴された事件です。これについて、最高裁は、災害を未然に防ぐという社会生活上のやむをえない必要からくることであり、公共の福祉のため、この程度の制限は財産権を有する者が当然我慢しなければならない責務であるから、憲法29条3項の損失補償も必要としない、としました(S38・6・26)。
37 農地改革事件(うかるぞ未掲載)
農地改革によって所有農地を買収されたが、その価格が憲法にいう「正当な補償」にあたらないとして、裁判を起こした事件です。最高裁は、憲法29条3項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基づき合理的に算出された相当な額をいうのであって、必ずしも常にかかる価格と完全に一致することを要するものではない、としました(S28・12・23)。
なお、農地改革とは、第二次世界大戦直後に行われた農地制度の改革で、大地主から土地を国が強制的に買い上げて、従来の小作農に廉価で譲り自作農を創設した戦後の民主的改革の一つです。
38 河川附近地制限令事件(うかるぞP252)
ある河川の附近地が河川附近地制限令により砂利の採取に許可が必要となったのですが、従来よりそこで許可を得ずに砂利の採取を行ったので、起訴された事件です。
これについて、最高裁は、このような規制は、公共の福祉のためにする一般的な制限であり、原則的には、何人も我慢するべきものであり、この程度の制限には損失補償が必要ないとしました。ただ、この事件の被告人は従来から行ってきた砂利採取ができなくなったのであるから特別の犠牲を被ったとみる余地があり、砂利採取を制限した法令に損失補償に関する規定がなくても、あらゆる場合に補償なしで制限する趣旨ではなく、憲法を直接根拠にして補償を請求できるので、この法令は違憲無効ではない、としました(S43・11・27)。
39 森林法共有林違憲判決(うかるぞ未掲載)
森林法が森林の共有林の細分化を防ぐために一定の場合に分割を禁止した森林法の規定が争われた事件です。最高裁は、森林の細分化の防止の必要は認められるが、共有森林について原物分割をしてもただちにその細分化をきたすとはいえないので、分割請求権を制限することは、その目的を達成する手段としての合理性と必要性のいずれも肯定できないとして、違憲であるとしました(S62・4・22)。
40 第三者所有物没収事件と告知・聴聞を受ける権利(うかるぞP66)
密輸による関税法違反で没収された貨物の中に被告人以外の第三者の貨物も含まれていたところ、これは憲法31条違反ではないかが争われた事件で、最高裁は、所有物を没収される第三者にも告知、弁解の機会を与える必要があり、これなくして第三者の所有物を没収することは憲法31条違反であるとしました(S37・11・28)。
41 高田事件(うかるぞP72)
15年間も審理が放置されていた高田事件(1952年に発生)について、最高裁は、審理の著しい遅延により迅速な裁判を受ける権利が侵害される異常な事態が生じた場合には、法律の規定がなくても、裁判そのものを打ち切るべきであるとしました(S47・12・20)。
※朝日訴訟(うかるぞP75・297)は、憲法の解説P47、NC公民P71下に掲載されています(S42・5・24)。
42 教科書費国庫負担請求事件(うかるぞP84)
小学校の二年に在学する児童の保護者が、教科書費を集めたことの取り消しと、教科書費の返還を求めて国を訴えた裁判です。そのなかで、憲法26条2項の定める義務教育の無償の範囲がどこまでかが、争点の一つとなりました。
最高裁は、そこでの無償とは授業料を集めないことを意味するとの判断を初めて示しました(S39・2・26)。
教科書費そのものについては、後に「教科書無償法」が制定され実際上の決着がつきましたが、憲法26条2項にいう無償の意義については、就学費用一切をさすという少数説との間で諭争が続いています。
※上記事件集は、「現代憲法入門」(一橋出版)から引用させて頂きました。
以上で、第7回目の講義、法令等>憲法3は終りです。次回は、問題集の活用の仕方に入ります。
行政書士試験は、普通の人が、正しい方法で人並以上の努力をすれば合格できます。どんどん先へ進みましょう。